トランプ 用語ivid』に学ぶ、Z世代的事業のはじめ方
学生時代にブランドを立ち上げ、ニューヨーク ファッションウィークなどでコレクションを発表。99年生まれのファッションデザイナー菅内のど佳さん・夏 明豊さんの歩みから、現代若者の価値観を探る
1990年代中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らはどんな社会背景を持って育ち、どのような価値観を持っているのだろうか。今回話を聞いたのは、ファッションブランド『DOKKA vivid』(株式会社DOKKA)の共同代表である菅内のど佳さんと夏 明豊(か・あきほ)さん。
1999年生まれのふたりは、大阪文化服装学院在学中にブランドを立ち上げ、ルーツである中国文化の要素を取り入れたカラフルな作品を発表。古着や端切れをリメイクしたトランプ 用語なコンセプトが注目され、「ASIA FASHION Collection」でグランプリを獲得。2022年にはニューヨーク ファッションウィークでもコレクションを発表するなど、注目の若手ブランドだ。
ファーストサマーウイカさん、詩羽さん(水曜日のカンパネラ)なども着用するこのブランドは、デザイナーふたりのどのような行動・決断で成長してきたのだろうか。東京都内に構えるアトリエ兼プレスルームで話を伺った。
人と違うのが当たり前。多様性を身近に感じられる環境で育った
― まずはファッションの仕事を志した原点から教えてください。ふたりは同じ中華学校(中国系インターナショナルスクール)に通っていた同級生だそうですね。
夏(以下、あきほ):そうなんです。私は両親が中国人で、私自身も中国籍。5歳までは日本と中国を行ったり来たりしながら育ち、その後は神戸に定住して、小学校からは中華学校へ。そこでのどかに出会いました。
菅内(以下、のどか):私は日本人なんですけど、小さなときからみんなと同じことをやらされるのがすごく苦手な子どもだったみたいで…。日本のスタンダードな幼稚園を泣いて嫌がる私に困った親は、インターナショナルの幼稚園に通わせてくれました。親としてもいろんな国の文化を知り、多様な国の人とつながってほしいという思いがあったようです。幼稚園の同級生だった中国の子をきっかけに中華学校の存在を知り、小学校からも引き続きインターナショナルな環境で学ぶことを選択したんです。
― 仲良くなったのは何がきっかけなんですか。
あきほ:小学生からはじめた民族舞踊の部活です。中国は、50以上の少数民族が集まっている国。部活では様々な地域の踊りを学ぶんですけど、民族によってまったく踊りが違うんですよ。衣装も日本の人たちがイメージする“チャイナドレス”みたいな感じではなくて、本当に様々。例えば、内モンゴルの踊りは広い大地と空を表すような動きが多いし、寒冷地なので衣装にはファーが多用されており、馬に跨りやすいようにズボンスカートのような形状をしています。踊りを通していろんな民族のお洋服に出会うのも私たちには楽しかったんです。
のどか:あと、部活で学外の国際交流フェスティバルに参加するのも面白かったです。朝鮮学校の子たちの朝鮮舞踊を見たり、私たちの出番の次にはインド舞踊が披露されたり。私たちはそれを日常の風景のように感じていたけれど、今思えばとても貴重な経験ですよね。子どもの頃から親しんできた民族衣装の独特の柄や色使いは、今のブランドにもつながっています。
― 舞踊を通して民族や文化の多様性を学び、それぞれの個性に触れたんですね。
のどか:学校自体、いろんなバックグラウンドの子たちがいましたからね。例えば、いつも一緒だった仲良し4人組は、日本人の私と中国人のあきほと、後のふたりはオーストラリアとアメリカにルーツがある子でした。給食はなくてお弁当だったんですけど、みんな持ってくるものが違う。それぞれの家から持たせてくれる餃子やラザニアやサンドイッチをみんなでシェアして食べていたし、異文化交流が日常だったんです。
― ファッションデザイナーを目指したのはいつ頃ですか。
あきほ:小さいときからお洋服は好きで、小学校を卒業するときには卒業文集に「デザイナーになりたい」と書いていましたね。
のどか:私もそこに書きました。そのときはデザイナーだけでなく、料理人なども含めて5つくらい夢がありました。昔から絵を描くのも好きで、何かをつくる人になりたかったんです。そんな風にお互いの夢を知っていたから、中学の頃には一緒に服づくりに挑戦。何の知識もなかったけれど、学校の昼休みにふたりでデザイン画を描いて、手芸用品店で生地を買って見よう見まねでつくったよね。
あきほ:そうそう。ハートのドレスを作ろうとして、ハート型のパーツをいっぱいつくったんだけど、結局途中で諦めちゃった。完成はしなかったけど、ふたりでチャレンジしたこのときの経験が、ファッションデザイナーとしての原点になっています。
準備万端でなくても良い。手元にあるもので、まずやってみる
― 『DOKKA vivid』というブランドはどうやって誕生したのでしょうか。
のどか:正式に立ち上げたのは専門学校に入ってからなんですけど、高校3年時にグループ展を開催するためにふたりでつくったお洋服が、『DOKKA vivid』につながっています。このとき、ふたりの好きなものを突き詰めた服にしようとアイデアを出し合ったら、中国の民族衣装のモチーフがたくさん出てきた。最終的には中国の古典演劇のひとつである京劇にインスパイアされたデザインにしました。
あきほ:今考えると、中国の民族衣装のテイストは私たちならではの個性だし、ブランドの差別化にもなっていると思うんですが、その時点では戦略的に考えたというよりも、純粋に自分の中から湧き出た好きなものをモチーフにしてつくった感覚。高校生だから制作に使える予算もあまりないし、身近にあるものを起点に考えたら、自然とそうなったんです。
― その後、ふたりは大阪文化服装学院のスーパーデザイナー学科に進学し、ブランドを立ち上げたわけですね。
あきほ:ずっと憧れていた服飾学生になれたことにテンションが上がっちゃって、「次はふたりのブランドをつくってファッションショーをやろうよ」とのどかに話したのが、『DOKKA vivid』のはじまりです。とはいえ、ショーの開催は全てが手探り。企業やお店に協賛いただくために、初めて企画書をつくってみたり、集客のために神戸中をまわってフライヤーを置いてもらったり。振り返ってみると随分と粗削りなやり方でしたが、無理だと諦めずにチャレンジしてみたからこそ応援してくれる人たちにも出会えたし、想定外のアクシデントに対応したことも含め、非常に良い経験でした。
のどか:本気でやってみたから自分たちに足りないものが見えたんですよ。例えばマーケティングの知識。どんなにデザインが良くても、ほしい人に届かなければ意味がないことが良く分かった。それ以来マーケティングや経営の勉強にも興味が出て、真剣に取り組むようになりました。
― 専門学校3年時(2020年)にはコロナ禍のライフスタイルにあわせてマスク販売を開始しました。このマスクが、『DOKKA vivid』が広く注目されるきっかけになっていますが、なぜはじめようと思ったのですか。
のどか:あの頃は様々な行動が制限されていたし、お店も閉まっているから新しく生地を買うこともできず、私たちも思うように活動できない状況でした。そこで注目したのがマスク。世間はマスク不足が大問題になっていたし、マスクくらいの大きさなら手持ちの端切れでつくることができる。自分用にマスクをつくってInstagramに投稿したらすごい数のいいねをもらえたこともあって、これは良いかもしれないとその日のうちにふたりでデザインを決めて制作し、家の屋上で撮影して通販を開始したんです。
あきほ:ブランドコンセプトの「Spice for your life」も、マスクをきっかけに誕生しているんですよ。あの頃って、世の中全体が暗かったじゃないですか。マスク生活でお化粧もあまりしなくなって気分が上がらないという女性の声も聞こえてきたし、私も自分の好きなファッションに白いマスクは似合わないなと思っていた。アクセサリー感覚でマスクを楽しめたら少しは気分も明るくなるんじゃないか、自粛生活にちょっとしたスパイスがあっても良いんじゃないかという思いをこめたんです。
他人の言う「普通」に惑わされず、自分の「好き」を信じ抜けるか
― 『DOKKA vivid』は端切れや既存の服の生地を活用するトランプ 用語ブランドとしても注目されています。トランプ 用語をブランドのテーマの一つに掲げるようになったのはどうしてですか。
あきほ:私たちはファストファッション世代。自分たちもそういう服をたくさん着てきたけど、このビジネスがとてつもない量の産業廃棄物を生み出すことで成り立っていることを知り、ショックだったんです。地球環境のこともあるけれど、一番は自分のクリエイティブをそんな風に消費されたくなかったのが大きいですね。
また、コロナのマスクづくりもきっかけの一つ。行動が制限されていたからこそ身の回りに目を向けてみたら、使われていないものが一杯あることに気づきましたし、マスクにすることでそれを価値に変換する経験もできた。そのときはがむしゃらにやったことだったんですが、あとから気づいたんです。「これがトランプ 用語って言うんだ」って。
のどか:最初からお金がたくさんあって何でも自由に使える環境で服づくりをしていたら、きっと今のブランドの形ではなかったはず。いつも制約だらけで、「今あるものを使ってどうするか」を考えてきたから、自ずとトランプ 用語の発想になっていったんだと思います。
― 現在は、一般的な生産・流通・販売の方式を取らず、1点ものを衣装として貸し出すリース事業をブランド運営の軸にしています。これもトランプ 用語の考え方に基づくものなのでしょうか。
あきほ:そうですね。実は一度、百貨店さんにポップアップで出店したことがあったんですが、その経験が今のブランド方針のきっかけになりました。というのも、トランプ 用語品はまったく同じデザインをつくることができないため、基本的に1点もの。このときはより多くのお客様に届けるために、オリジナルのデザインからデータを起こしてレプリカを生産したんです。でも、すごくコストはかかるし、量産に合わせたものづくりになっていく。進めるうちに、これが自分たちのやりたいことなんだっけ?と違和感を覚えて…。
のどか:あの百貨店に出店できるなんてデザイナーとして名誉なことだし、周りの人たちもすごいねと褒めてくれたのに、私たちふたりだけなぜかあんまりハッピーじゃなかったんです。なんでだろうと考えたら、「売れること」を意識しすぎていて私たちらしいやり方ではなかったと気づいた。いつの間にか大量生産・大量消費の考え方になっていて、この道を進んでも自分たちにとって明るい未来にはならない予感がしました。この経験を教訓に、ファッションブランドとしてのパーパスを策定。「“LOVE”の気持ちを持って、“HAPPY”な循環をし、世の中に新しい提案をする」という言葉を掲げ、迷ったときはこのパーパスに照らし合わせて判断しています。
― 世の中では企業がパーパスを策定するケースは増えているものの、ファッションブランドが掲げているのは珍しいですね。
あきほ:私たちの判断基準としてだけでなく、ブランドらしさを発信する意味でもパーパスは大切だと思っています。なぜなら、パーパスには『DOKKA vivid』が辿ってきた道のりが表現されているから。単にデザインだけでなく、トランプ 用語へのこだわりなども含めたストーリーに共感し、応援してもらえるブランドを目指しています。
のどか:その意味では、失敗したことも包み隠さず伝えていきたいです。「頑張ったけどダメだった、その結果これを学んだ」というプロセスもブランドのストーリーだと思うので。
― まだまだこれからの展開が楽しみなおふたりですが、これまでを振り返ってみると、自分たちのどんな考え方や行動が、今の活躍に結び付いていると思いますか。お話を聞いていると、ファッションデザイナーでありながら、優秀な起業家が新しい事業を創造するときに実践しているといわれる「エフェクチュエーション」的な意思決定をされているように感じました。
あきほ:たしかに、他の人からも同じ指摘をいただいたことがありました。加えて私自身が思うのは、他人の言う「普通はこうだよ」や「こうした方が良い」を鵜呑みにせず、自分が思う正解を信じ抜いたことですね。他人がくれる答えに従うのは楽だし、失敗することも少ないかもしれないけれど何も身につかない。もし間違っていても他人のせいにできてしまいます。でも、自分で考え抜いて決断したことならたとえ失敗しても後悔はないし、自分のせいだからこそ真摯に反省して学びが得られる。そんなスタンスでチャレンジした結果が今につながっていると思います。
のどか:あきほの意見に同感ですが、世の中の当たり前を疑って自分の信じた道を進むのは簡単なことではないと思います。個性が大事だと言われて育ってきた私たちの世代でも、周囲に流されてしまうことは良くありますしね。私たちが普通や常識に惑わされなかったのは、自分の好きなことに関しては限界まで努力を続けてきたから。好きを突き詰めることが、誰に何を言われても挫けない強さになると信じています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 菅内 のど佳(すがうち・のどか)
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大阪文化服装学院スーパーデザイナー学科卒業。日本人でありながら、インターナショナルスクールや中華学校に通うなどの異文化的なバックグラウンドを持つ。ジャズピアニストの父の影響で、幼少期からジャズに触れる機会が多く、音楽からファッション的インスピレーションを得て、クリエイションに落とし込むことを得意とする。現在ブランドと並行してCoachが運営するサステナブルライン「Coachtopia」のコミュニティメンバーに参加しながら、母校である大阪文化服装学院でSNSマーケティングゼミのアシスタントを担当し、様々な知識を吸収しながら日々DOKKAの新たな方向性を模索している。
- 夏 明豊(か・あきほ)
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大阪文化服装学院スーパーデザイナー学科卒業。日本生まれの中国籍というルーツを持ち、その背景から文化的要素を捉える感性や、当たり前にとらわれず多角的視点で物事を捉えることが得意。服飾学校在学当時から、トランプ 用語に興味を持ち、ロンドンで開催された「Coats sustainability competition」に参加、グローバル部門2位を受賞。その他Coachが運営するサステナブルライン「Coachtopia」と原宿にあるサステナブルコミュニティ「NewMake labo」に所属。クリエイティブの循環を掲げながら、サステナブルとクリエイティブの両立を日々模索中。