ポーカー 戦略。紆余曲折を経てGHG削減に挑む
量子エネルギーの研究、銀行の法人営業、キャリアアドバイザーと多様な経験をしてきた、リクルート サステナビリティ推進室の山西 慧。実はキャリアの軸は一貫して「環境問題の解決」だったそうです。
「もののけ姫」で開眼。でも環境問題をめぐるキャリアは一筋縄ではいかなかった
― リクルートグループの温室効果ガスの排出量削減に情熱を持って取り組んでいる山西さんですが、いつ頃から環境問題に関心を持ったのですか?
山西:中学生の時です。映画「もののけ姫」に影響を受けました。
― 「もののけ姫」がきっかけだったんですね! どんな影響を受けたのですか?
山西:あの物語はさまざまな読み解き方があると思うのですが、自分には「人間が一方的に自然を侵略し、破壊している様子」に見えまして、そんな物語のワンシーンをきっかけに環境問題について考えるようになりました。
それ以降、いつもの通学路の見え方も変わりましたね。自然が豊かな町から野原がどんどんポーカー 戦略ていくことに気付くなど、身近な環境問題にも敏感になったと思います。
― 私も同じ映画を見ていたはずなのに受け取り方が全然違いますね…。その後、どのように進路選択をしたのですか?
山西:環境保全は自分にとって見過ごせないテーマになり、大学の研究室では原子力発電に伴う廃棄物や汚染水を無害化する研究に取り組みました。
地球温暖化の問題を解決するには、温室効果ガスの排出が少ないエネルギーが必要なので、温室効果ガスの排出量が少ない原子力発電の普及に貢献したいと考えたんです。原発の課題は廃棄物だから、汚染水を無害化する研究に携わることで、温暖化を食い止めたいと…。
― 大学生の時からそんなふうに研究テーマを設定していたんですね。その後、研究職ではなく銀行に就職しますが、何かきっかけがあったのですか?
山西:在学中の2011年、東日本大震災を経験しました。その時に、研究者ではなくビジネス側に行きたいと思うようになったのが大きな変化でした。
というのも、震災による原発をめぐる問題に直面した時に、研究成果が素晴らしくとも、実用化を左右するファクターは無数に存在する。社会に価値提供をするには膨大な時間がかかると知りました。
自分はどちらかと言えば、環境問題の解決に直接・スピーディに携わりたい。それならビジネスで携わろうと思い、経営資源のヒト・モノ・カネのうち、まず金流を知るため銀行に就職しました。
― 大胆なキャリアチェンジですね。その後なぜリクルートに?
山西:銀行に入行してからは法人営業などを経験し、環境問題に関わる提案や支援も積極的に行いました。やりがいがある一方、資金が潤沢にある企業であっても、最適な「人材」がいないとサステナビリティは推進されにくいという課題も…。
― 今度は「人材」だと。
山西:そうです。人材紹介事業を運営するリクルートに入社して、『リクルートエージェント』で転職活動を支援するキャリアアドバイザーを担当しました。環境問題に取り組みたい理系求職者の皆さんの支援をし、製造業などのクライアントの採用活動に貢献するべく取り組み、気が付けば5年が経っていました。
― キャリアの軸が一貫して「環境問題の解決」で、ブレないのがすごいです。その後、どうして今の部署で働くことになったのですか?
山西:社内異動制度でサステナビリティ推進室の人材募集を見つけ、企業や個人への個別支援だけでなく、今後はマーケットや社会にアプローチしたいと思って挑戦しました。
企業のサステナビリティ推進で大切なこととは?
― リクルートとして本格的にカーボンニュートラルに対する目標を掲げたのが2021年ですよね。
山西:はい、自分がサステナビリティ推進室に異動したのもその頃で、環境担当として、温室効果ガス排出量削減※の検討を始めました。
※温室効果ガス排出量の削減…2021年5月に発表したリクルートグループの「サステナビリティへのコミットメント」では、「2021年度中に当社グループの事業活動において、また、2030年度までに当社グループの事業活動を含むバリューチェーン全体において、温室効果ガス排出量のカーボンニュートラルを目指す」ことを目標とし、全ての事業活動やサービスを通じた環境保全活動に取り組んでいます。
― 山西さんはまず初めに、温室効果ガス排出量を算定するためのロジックに注目したそうですね。
山西:一番に気になったのは計算式でした。排出量の算定方法などを確認し、リクルートの実態や世界の国々のやり方について調査を進めるなかで、分かってきたことがふたつありました。
ひとつ目は、リクルートの温室効果ガスの排出量のうち、実に9割以上がバリューチェーン由来、つまりパートナー企業の皆さんとの協働の過程で排出されているということ。
ふたつ目として、そうした特性があるにもかかわらず、リクルートが用いていた算定方法では、特にバリューチェーン由来の温室効果ガスの排出実態を精緻に算出できておらず、課題特定や対策検討がしにくいこと。
概要になりますが、現状の算出ロジックのままではパートナー企業の削減努力を反映できず、リクルートの温室効果ガス排出量の削減と事業の成長を両立することが困難になる、という構造的な課題があることが分かったんです。そのため、まずはパートナー企業の温室効果ガスの排出量を精緻に把握する必要があると考えました。
― 実際に取り組みを始める際、上司と毎週の打ち合わせをしたそうですね。
山西:直属の上司に課題を共有すると、「リクルートの経営アジェンダとして取り組むべきテーマだと思う。プロジェクト化を見据えて起案して欲しい」と言ってもらえました。
ですが、当時の私には多くの関係者を巻き込んだプロジェクト型の仕事の経験が少なかった。経営陣に起案しようにもどうしたらいいのかが分からないので、ひとまず温室効果ガス排出量削減の意義や測定の精緻化に取り組むべき理由などを企画書にアウトプットしてみたんです。
ですがレビューしてくれた上司にはこう言われてしまいました。「これは誰の視点で、何のために書かれているの? 」
― 何が問題だったのですか?
山西:振り返ってみると、その時の私は「環境問題に取り組むのは、良いことだからやるのが当たり前」という感覚でした。言わばサステナビリティを主語にした企画になっていました。
でも上司が投げかけてくれたのは、「リクルートが取り組む蓋然性がなぜ高いのか?」「サステナビリティ推進室ではなく、営業活動を行う部署にとってのメリットは?」「取引してくださるパートナー企業にとっての利点は?」といった問いです。
そんなやりとりを毎週、繰り返すうちに気付いたんです。企業が環境問題に取り組むには、「社会的意義」と同時に経済合理性も大事。ステークホルダー全員のWin-Winを実現できなければ取り組み自体が持続しないのだと。
― 経済合理性も考慮することで継続性も生まれるんですね。そういったリクルートの取り組みは社外からご評価いただいていると聞きました。
山西:はい、ありがたい認定を受けることができました。ですが、今は排出量の精緻な測定ができつつある段階に過ぎません。GHG削減の具体的な対策まで実行するには道半ばです。これからも関係する方々の多様な視点を大事にしながら、ブレずに進んでいきたいと思います。
社会に好循環を生む、そんなサステナビリティを推進していきたい
― リクルートが温室効果ガス排出量削減に関して、今取り組んでいることは何ですか?
山西:関係する組織の責任者や執行役員とも議論を重ね、2024年現在はリクルートの計7部署およびパートナー約50社で温室効果ガス排出量の測定と情報連携を行っています。
― 日本の社会的な関心も高まっていると感じますか?
山西:最近ではお取引のあるクライアントの皆様から「リクルートは温室効果ガス排出量の算定をしていますか?」とお問い合わせいただくこともあります。取引検討の1要素として考慮される企業も増え、環境問題への取り組み姿勢が企業の競争力強化にもつながる兆しを感じます。
パートナー企業の皆さんとともに「環境への取り組み」でクライアント、ひいては社会の皆さまに選ばれるようにならなくてはと感じています。
― 山西さんは今後、環境問題に対してどのようなことに挑戦していきたいですか?
山西:既に環境先進国のドイツでは、街なかの壁面広告で大きく自社サービスの環境貢献性を謳っていたりもします。消費者が商品サービスを購入する際の判断軸のひとつが「環境」になっている社会もあるんです。そのように一人ひとりがポジティブに環境活動に取り組める社会を実現することが私の目標です。
そのためにリクルートで地道に働くことに迷いはありません。「企業」は社会問題をスピーディに、効果的に解決する装置のひとつです。環境問題においても同様で、リクルートがビジネスサイドの視点を持ちながら環境問題に向き合い、パートナー企業の皆さんや業界と協業・共創しながら、好循環を生み出していくことが、環境問題の解決につながると信じています。
「社会のために働きたい」。だから私はリクルートで働いています。
登壇者プロフィール
※プロフィールは取材当時のものです
- 山西 慧(やまにし・けい)
- 株式会社リクルート サステナビリティ サステナビリティ推進室 サステナビリティ戦略企画部 基盤構築グループ
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都市銀行の法人営業を経て、2016年4月に株式会社リクルートキャリアに入社し、製造業界・IT業界のエンジニア向けのキャリアアドバイザーを担当。2021年4月から社内異動制度を活用し、サステナビリティ推進室に異動。リクルートの環境推進活動全般に従事
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