「一人ひとりの“好奇心”や“情熱”のきっかけに」
参加校の先生が感じた『高校生Ring』の可能性
「一人ひとりの“好奇心”や
“情熱”のきっかけに」
参加校の先生が感じた
『高校生Ring』の可能性
アントレプレナーシップを学ぶための高校生向け教育プログラム『高校生Ring』。2024年度のプログラムには、全国から164校3万2,244人の生徒に参加いただきました。審査を通過したチームは、2025年2月15日(土)に開催する『高校生Ring AWARD 2024』に向けた取り組みが続きます。
その一方で、参加した全ての生徒が経験した、「半径5メートルの身近な物事から問いを立て、解決のためのビジネスを考える」というチャレンジを学校や生徒はどう感じているのでしょうか。そこで今回は、2024年度に『高校生Ring』へ初参加した明星高等学校(東京都)を訪問。1年生の学年主任を務める飯島崇史先生に、参加の狙いや実際に取り組んだ生徒たちの様子などを尋ねました。
試行錯誤が続く探究学習。高校生に合った学びの機会はどうあるべきか
── 全国の高校で2022年度から「総合的な探究の時間(探究学習)」が必修化されましたが、明星高等学校ではこれまでどのように取り組んできたのですか。
明星高等学校は、創設以来「体験教育」に力を入れてきた学校です。そのため、必修化以前から座学以外の学びについても前向きに取り組んできました。例えば、2020年度からは「SDGs推進校」を宣言。探究活動と社会課題の解決を接続し、「総合探究」の授業を通して取り組んでいるのが特徴です。
── 以前から「探究」に通じる学習が盛んな学校だったとはいえ、必修の授業として改めて取り組む上では、難しさを感じる部分もあったのではないでしょうか。
そうですね。最初の頃は、「探究学習はいわゆる調べ学習とは何が違うのか」「生徒たちにどんな学びを提供することが探究学習なのか」…と、先生によっても見解はさまざまで手探状態でした。しかも、この授業の難しいところは、生徒たちのレベルが年々上がってきていること。一昔前であれば、高校で初めて探究学習を経験する生徒が大半でしたが、今は中学生や小学生など学齢の低い時期から探究に近い学習を経験している世代です。だからこそ、教える側の私たちも同じプログラムを毎年続けるのではなく、「今の生徒たちに合った探究学習は何なのか」と常に模索しています。
── 試行錯誤の中で、特にどのような点に悩んだのでしょうか。
悩ましかったのは、生徒の思考を助けるために提供すべきツールや教材の選定です。探究学習では生徒が自ら課題を設定し、解決に向けて取り組んでいきますが、この時にMBAで教えられるような本格的な思考のフレームを提供しても、高校生には難易度が高すぎます。かといって手厚くフォローしすぎても、生徒の思考は深まらない。高校の探究学習を始めるにあたって入口となるような、難しすぎず簡単すぎないレベル感の教材を模索していました。
また、座学で思考のフレームなどを学ぶ時間と、実地調査などの具体的な探究活動が分断されずに上手く接続している状態を作りたかったんです。なぜなら、探究の本質は一度やって終わりではなく、「課題を設定し、解決のために行動し、結果を検証して、また次の行動に活かす」というサイドラクエ 5 ポーカーが大切だから。この探究サイドラクエ 5 ポーカーを、高校生活を通じて何度もまわせる状態が作れないかと考えていました。
身近な関心事から問いを立てる方が、探究のサイドラクエ 5 ポーカーが回りやすい
── 明星高等学校が2024年度の『高校生Ring』を探究の授業に活用しているのはなぜですか。
『高校生Ring』のコンセプトでもある、「半径5mの日常から問いを立てる」という発想が、高校生だからこその視点が活かせるチャレンジだからです。もちろん、世界には気候変動や貧困など深刻な問題が存在しますし、それらに向き合う機会も大切です。ただ、日本の高校生の日常とは距離があり、課題の当事者や課題の背景をリアルにイメージしづらいテーマも多い。それでは思考が深まらずにその場限りの学習で終わってしまいがちなため、継続的に探究を続けるにはなるべく身近な問題の方がいいのではないかと思います。
また、人から与えられた問いではなく、自分の中から湧き上がってきた問いでなければ、「知りたい」「解決したい」というエネルギーは生まれにくい。継続的に探究サイドラクエ 5 ポーカーを回す意味でも、高校生の日常の中から問いを立て、解決するためのビジネスアイデアを考えてみるという『高校生Ring』のプログラムは、本校が目指す探究の授業にマッチしていると思いました。
── 具体的には、どのように『高校生Ring』を活用していただいたのでしょうか。
1年生が「自ら問いを立てる」ところから探究の成果を発表するまでの一連のプロセスで活用しています。ただ、今回はあくまでも探究学習を深めるためのツールのひとつとして生徒たちに提示。『高校生Ring』を通して学ぶアントレプレナーシップは、あくまでも起業家“的”精神であって、起業家になりたい人だけのものではないですよね。アントレプレナーシップとしてうたわれている「困難や変化に直面しても自らの枠を越えて行動を起こし、新たな価値を生み出す力」は、変化が激しいこれからの時代にはどんな人にも必要な力だと思いますから。
── 生徒の学びに伴走する教師の皆さんの視点からは、『高校生Ring』をどう感じられましたか。
生徒たちに楽しく学んでもらうという観点で、いい教材だと思いました。例えば、生徒に配布した「Ring NOTE」。教科書然としていないビジュアルやデザインが他の科目とは違う印象を与え、生徒たちの自由な発想を引き出してくれたような気がします。
また、活動を通して生徒それぞれの新たな一面が見えてきたことも、教師の立場からすると嬉しい効果でした。「この生徒は他の授業ではあまり目立たないけれど、プレゼンテーションも上手いし、アイデアの切り口が斬新で面白い」といった、生徒の個性や強みに気づくきっかけにもなっています。
『高校生Ring』を経て、内発的動機付けのきっかけになった生徒も
── 『高校生Ring』に参加した生徒の皆さんは、どのように取り組んでいましたか。
ビジネスアイデアを考える経験自体が初めての生徒が大半ですから、やはり最初は「どうやって進めたらいいの?」と戸惑いも感じられました。ただ、途中経過や発表会の内容を見てみると、初めてにしてはしっかりアウトプットできている。特に多面的に考えられているのが印象的で、課題の本質まで深く切り込んでいる生徒や、企画したサービスのターゲットや商流、価格設定に至るまで幅広く検討している生徒もいたのは、「Ring NOTE」で提示されている思考のフレームがヒントになっていると思います。
── 『高校生Ring』でのチャレンジを経て、生徒に変化や成長の兆しがあれば教えてください。
これは『高校生Ring』に限らずですが、探究に主体的に取り組む生徒は、本人が心から夢中になれる問い(テーマ)に出合えている場合が多く、それが将来目指したい職業やキャリアに結び付く印象があります。自分のやりたいことが見えてきたからこそ、そこから逆算して「○○大学に行きたい」「○○学部の○○ゼミに入りたい」と、高校卒業後の進路もより具体的な志望先が出てきやすい。こうした変化が起きるのは、教師として非常に嬉しいことです。
また、そこまでの成長ではないにしても、探究活動を通して自信が芽生える生徒は多いですね。例えば発表会当日の朝まで「ビジネスアイデアを人前で発表するなんて、自分にできるかな…」と凄く緊張していた生徒も、本番では堂々としたプレゼンでした。教師の目から見ても、そうした日々の変化を感じやすいのが探究の授業です。
── 例えば国語や数学の授業中に先生から指名されて問題に答えることや、部活でいい成績を残すことも、ある種の「成功体験」ですよね。それらに比べて探究学習が自信につながりやすいのはなぜだと思いますか。
より社会に近いところで取り組むからだと思います。しかもそれは、誰かに与えられたお題ではなく、自ら設定した問題。調査や研究を通して大人に接することもありますし、高校生の問題提起に対して大人がリアクションをしてくれることは、生徒たちにとって大きな刺激になります。『高校生Ring』でも、一定の審査が進んだ後、リドラクエ 5 ポーカーートの方々が本気でアドバイスや講評をしてくれる機会がありますよね。それって学校の通常の学びとは一味違う経験で、社会で活躍する大人が認めてくれたという成功体験が高校生の自己肯定感を大きく引き上げてくれる気がします。
「変化を促す学習体験」を生徒たちに、もっと
── 探究学習をさらにより良くしていく上で、次年度以降に向けた“宿題”があるとすれば、どんなことが考えられるでしょうか。また、その解決のために『高校生Ring』に期待したいことはありますか。
現状でも、先ほどお伝えしたような「将来やりたいこと」を見つけてくれる生徒も増えていますし、自分で人生を切り拓く力や変化を恐れない姿勢といった、いわゆる「非認知能力」が育っているなと感じられることも良くあり、将来社会で活躍する準備にはなっていると思います。その一方で、現実的には社会に出ていく前に大学進学などの進路を叶える必要がある。将来の夢との橋渡しをするのも私たち高校教師の重要な役割ですから、探究学習で身につけた非認知能力を受験にどう活かしていくかが私たちの宿題だと思っています。『高校生Ring』にも、エントリーして終わり審査結果が出たら終わりではなく、その後の高校生活にも続いていくような学びのご支援を期待したいですね。
── 最後に、飯島先生が目指す「学びのあり方」について教えてください。
今、学びのあり方は変化の過渡期。過去には、試験でいい点数を取らせること、言い換えるなら答えのある問題に対してなるべく多く正答できる「再現性の高い人」を育てることが学びだという時代もありました。でも、今はそもそも変化が目まぐるしく、100点の正解なんて誰も知らない時代。だからこそ、今の時代にあるべき学びとは、「変化できる人」を育てることだと私は思います。自由で柔軟な視点や発想が養われるよう、生徒たちの主体的な学びに伴走していくことが、私の目指す姿ですね。
それに、答えがあるものなら人間が考えるよりもAIに聞いた方が早いと、今の高校生は既に気づいています。それがますます当たり前になる時代を生きていく彼らだからこそ、人間にしかできないような思考やアイデアで勝負できる人に育ってほしい。そのための学びの機会を提供するのが教師の役割だと思っています。
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