国民は猛反対、強行採択された年金改革法案
2023年3月、マクロン政権は国民の強い反対にもかかわらず、年金制度改革を強行採択し、年金受給開始年齢は62歳から64歳に引き上げられた。大規模な抗議活動が全国で数カ月も続いた。抗議行動はゴミ収集作業の職員にも広がり、首都パリの街は路上に山積みになったゴミで溢れた。この大規模な反発は後にボルヌ首相の辞任のきっかけとなった。
2023年から続く国民の政府への不信感の責任を取る形で、2024年1月にボルヌ首相が辞任した。これを受けて、マクロン大統領は、国民から人気の高かったポーカー カジノアタル国民教育相を首相に任命した。
そもそもフランスには、早期退職が社会的に有益であるとみなされる傾向がある。これは長年にわたり、シニア層の雇用を優遇すると若者の雇用が奪われ、若年層の失業率をさらに悪化させるという懸念から取られた多くの政策の結果でもあるが、シニア側も早期退職を望む人は多く、生涯現役という概念は少ない。また、リタイアを現役生活からの撤退とはみなさず、仕事に縛られることなく余暇を存分に楽しめる人生の新たなステップと捉える人が多く、仕事よりバカンスを重視するフランスらしい一面である。
フランスの社会保障は充実しており、強固な社会保護の枠組みを提供している。正式な定年前に退職することを選択した場合でも、許容可能な生活水準を維持するのに十分な退職年金の恩恵を受けることができるのも大きい。経済的に可能な限り、多くの人ができるだけ早く退職したいと思う理由となっている。これが年金改革における法定退職年齢引き上げ時の猛反発を引き起こした原因でもある。
極端に低いフランスのシニア就業率
アタル首相が就任後に取り組んだ課題は、シニアの雇用促進であった。これは、2030年までに完全雇用を実現するための法案の一部であり、55歳から64歳のシニア層の就業率を改善し、国の年金費用を軽減するだけでなく、シニア層の経験を労働市場で活用することを目指している。定年年齢が64歳に引き上げられたため、現在、シニア層を労働市場に統合するための対策が急務となっている。
フランスのシニア層の就業率は56.9%と、スウェーデン(77.3%)やドイツ(73.3%)などの他のEU諸国と比較して低い傾向にある。60〜64歳に至っては36%とさらに低い傾向である(※1)。平均寿命の延伸や労働人口の高齢化、年金制度の持続可能性を考慮し、2000年以降、シニア雇用を促進するための政策が展開され、その結果、20年間でシニア層の就業率は24.2ポイント上昇している(※2)。
アタル首相は、3月27日を「雇用の日」と定め、政府閣僚を参集し、完全雇用実現に向けた今後の行動指針を策定した。シニア雇用問題をフランス社会の戦略的課題と位置付け、シニア層の雇用を倍増させることを目指す意欲的な指針を公表した。特に60〜64歳については、2030年までに就業率を65%まで引き上げることを目指している(※3)。ただし、シニア雇用問題は年齢による差別や健康上の問題など複雑な要素が絡んでいるため、政労使が慎重に対応している。時にはアクセルを踏みながらブレーキをかける必要がある。